芦花公園著「聖者の落角」角川ホラー文庫

佐々木事務所シリーズ第3作目の「聖者の落角」読了。

素直に感想を書けばよいところを話が遠回りになってしまうのだが、私が地方公務員の仕事を選び、うつ病で休職している現在も復職を目指している理由は、私の仕事を通して、誰一人として自ら死を選ぶことのない社会をつくることに貢献したいという信念があるからである。

自治体で働いていると、子どもの貧困や虐待、命に関わる病気・障害、不当な人権侵害などの厳しい現実に直面する人々を目の当たりにする。一人の担当者として個々人や地域の抱える問題を認識した以上、見て見ぬふりはできないので自分にできる仕事を全力でやり、問題解決に貢献してきた自負も少なからずもってきた。その一方で、仕事をすればするほど、思い通りにはならないことは雪だるま式に膨らんで行くし、組織の方針と自分の信念との乖離に苦しんだりして、やるせない虚しさが心を占めるようになり、過労も相まってうつ病になってしまった。

本書は子どもの病気・障害が原因となって生じる「不幸とその救済」というテーマに向かい合っている。主人公の佐々木るみは、病気・障害をもつ子ども自身とその家族らが不幸な存在だと主観で決めつけることなく、あくまでも心霊案件のクライアントとしてニュートラルに接していく。るみとは対照的に、作中に登場する児童心理カウンセラーは、クライアントの不幸を自分自身の不幸に引き付けて抱え込んでいく。ストーリーが展開していくにつれて「他者を救済する者」を救済することの本質的な困難さが浮き彫りとなっていき、ああ、この児童心理カウンセラーのようにして私自身も潰れてしまったのだなと身につまされた。

心霊案件を扱う事務所所長の佐々木るみ、助手の青山くん、最強の拝み屋の物部、絶世の美青年の片山。このてんでバラバラに見える4人が繰り広げる人間模様には、その根底に互いへの尊敬と信頼、思いやりがあり、キリスト教の友愛の精神の一端に触れた思いがする。我々はみな一人だが、連帯し助け合うことができる。ホラー小説なのに心が温まる不思議な作品だった。